刑務所から仮釈放されたり少年院を仮退院したりした人たちの「保護観察」の強化を柱とする「更生保護法」が8日の参院本会議で全会一致で可決、成立 した。保護観察中に守らせる内容を明確にし、守らなければ刑務所や少年院に戻らせる仕組みを規定。施設の外で社会復帰を目指させる保護観察の狙いは維持し つつ、「再犯の防止」を強く打ち出した。
新法の創設は、04年11月に奈良県で起きた女児誘拐殺害事件の容疑者が保護観察を2度受けていたことや、05年2月に愛知県で仮釈放中に行方不明になっていた男が見ず知らずの乳児をいきなり殺害したことなどがきっかけとなった。
いまの犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法では、保護観察の対象者が守るべき順守事項は「善行を保持すること」といった抽象的な記述にとどまっている。保護観察官や保護司が対象者の生活実態を把握する明確な規定もなく、再犯の兆候を見逃しがちとの指摘が出ていた。
このため新法は、両法を統合し、法の目的に「再び犯罪をすることを防ぐ」旨を明示。順守事項として、保護観察官や保護司の面接に応じることや、勤務実態や収入、交友の状況を申告することなどを盛り込んだ。
対象者の状況や特性にあわせて、保護観察官が「犯罪性のある者との交際」や「遊興による浪費」といった行為の禁止を細かく指定できるほ か、薬物使用や性犯罪に至った性格を矯正するための専門プログラム受講を義務づけることも認めた。保護観察中に実情に応じて指定内容を変更することも可能 になった。
対象者が順守事項を守らなかった場合は、仮釈放を取り消したり、少年院に再び収容したりできるようにした。
一方で、地方更生保護委員会が受刑者の仮釈放や少年の仮退院を判断する時に、犯罪被害者の意見を聴き取る制度を導入。「犯した罪に正面から向き合うことが更生につながる」との狙いから、被害者の気持ちを保護観察官や保護司を通じて対象者に伝えることもできるようになる。
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■更生保護法の主なポイント
《保護観察対象者は……》
・保護観察官、保護司の面接を受けることや、求めに応じて仕事や就学の状況、交友関係などを申告することが義務づけられる
・順守事項を守らなかった場合は、仮釈放の取り消しや少年院に戻されることがある
・必要に応じて、性犯罪や薬物犯罪など特定の犯罪的傾向を改善するための医学、心理学などの専門的なプログラムの受講を義務づけられる
《犯罪被害者は……》
・加害者の仮釈放や仮退院を許すかどうかを審理する際、希望して認められれば意見を言える
・保護観察対象者の更生を妨げる恐れがない場合は、保護観察所を通じて被害に関する気持ちを伝えることができる
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〈キーワード:保護観察〉 刑務所の仮釈放者や保護観察付きの執行猶予者、家裁で保護観察処分を受けた少年や少年院の仮退院者に、社会生 活を通じて社会復帰を目指させる措置。国家公務員で専門知識を持つ「保護観察官」と、民間の篤志家がなる「保護司」が監督や指導にあたる。05年度には年 間約6万2000人が新たに保護観察の対象となっている。